安寿の本棚

□ 陵辱涙 猫科の愛玩動物 (完結) □

1 眼光(まなざし) 



陵辱涙1

第一章 眼光(まなざし)




 連れていかれるのが「かじろ」という男のところであることは、義也も理解していた。男たちが交わす会話の中で、その名が何度も繰り返されていたからだ。
 この半月ばかりのあいだ義也の所有者だった男たち。彼らは繰り返し義也を殴り、蹴り、代わる代わる犯して、泣きわめきながら達するところをビデオに撮った。
「気に入らないっすね。竿師風情が気取りやがって。何であんなヤツにウチの兄貴が腰を低くしてんです?」
「おい、滅多なことを言うなよ。痛い目を見るぞ」
 まるで汚れた荷物のように扱われ、転がされた車の後部座席。痛みに震えながら、義也は彼らの会話に耳をそばだてていた。どうやら「かじろ」は、一目置かれる存在のようだった。だが、だからといって好意を持たれているわけではないのだろう。
 それを意外だとは思わなかった。
 実際の値段がいくらだったのかは知らないが、「かじろ」は性的な慰みものにするために男たちから義也を買ったのだ。碌でもない男であることは間違いない。
 神代と書いて「かじろ」と読む。そう知ったのは車から引きずり降ろされ、この家の門をくぐったときだ。
 時代錯誤と思えるほど重厚な門扉。それを見上げて、義也は吸血鬼の館に連れてこられた心地だった。
 厳しい筆で書かれた古い表札が、その光景に馴染みきれずに威圧的な存在感を放っている。だがそのふたつの文字は、義也の中でなかなか「かじろ」という音には結びつかなかった。
 男たちは玄関先で早々に追い立てられ、義也だけが家に上げられる。
 出迎えたのが神代本人なのか、よく分からなかった。
 男は自分が誰だと名乗りもしない。
 こんなご大層な家に住んでいる金持ちなら、使用人のひとりやふたり、いても不思議ではない気がする。
 それにその男は、性の奉仕をさせるために若い男を買う脂ぎった変態オヤジとは程遠い印象だった。
 端正な顔立ちだったし、若すぎるようにも思える。まだ四十にも届いていないだろう。ヤクザに一目置かれる男とはとうてい見えない。
 だが、広い家はひっそりと静まり返っている。この男のほかに誰かいるという気配は感じられなかった。
「おいで、こっちだ」
 男はそう言って、義也の肩を抱いた。
 粘り付く愛撫のようなその手の動き、言葉とともにもらされる、しめりけを帯びた吐息。そうしたものには、確かに性的な行為を予感させるものがある。
 促されるまま長い廊下を歩き、義也は奥の部屋へと案内された。
 そこに一歩足を踏み入れて、その部屋の異様さに息をのむ。一方の壁は床から天井まで鏡張り。その前に五脚の椅子が置かれていた。
 それぞれに似ても似つかぬ形状の椅子。
 だがそれらが座る者を拘束し、性的な辱めを与えることを意図して造られたものであることは明白だった。ただそこに置かれているだけで、押し迫るような淫猥さが滲んでいる。
 それだけが、その五脚の椅子の共通項だった。
 椅子の脇にはそれぞれに小さなテーブルが置かれていて、いくつもの性具が整然と並べられている。そしてその几帳面さとは対照的なほど無秩序に、数えきれないほどの写真がばらまかれていた。
 粒子の荒いモノクロ写真の硬い画質。
 そのすべてがピアスを施した人体の一部を撮影したものだった。被写体はどれも若い男で、その顔も、体も、どきりとするほどに美しい。
 耳朶。瞼。唇。舌。乳首。臍。性器にピアスが穿たれているものもあった。どの部位も赤裸々に、そして無慈悲にフレームに収められている。
 義也には官能的だとは思えなかった。
 ただただ痛々しいばかりだ。
 まだパッケージに収められたまま性具とともに並べられている奇妙な器具。写真を見なければ、それがピアスホールを穿つための道具であることなど気付くことはなかっただろう。
「好きな椅子を選んで座ってごらん?」
 背後に立った男は少し身を屈め、義也の耳元に口を寄せてそう囁いた。
「……」
 だが義也は、並べられた椅子を直視することさえできなかった。
 椅子も鏡も、性具やピアスも見たくない。
 義也は傍らに立つ男からも目をそむけて、部屋のすみに寝そべっている黒い猫を見つめていた。猫は義也を威嚇している。まるで自らのテリトリーを新参者に荒らされることが不満だと訴えているようだった。
 義也を見下ろして、男が小さく息を吐く。
 その吐息が肌に触れたとき、義也の体がびくん……っと、大きく震えた。
 命令に従わなければ殴られるか、蹴られるか、そのどちらかが待っている。それがこの半月ほどの義也の日常だった。
「どれも気に入らないのかい?」
 男の声は穏やかだった。苛立ちなど、まるで感じ取ることはできない。
 だがそれでも、義也は男を見上げることはできなかった。見なくても、まるで肌を刺すような容赦ないまなざしを注がれているのが分かる。
「……汚れるよ」
 ぼそりとそうつぶやく。
 義也を車に乗せる直前まで、男たちのお愉しみは終わらなかった。気を失うまで犯されて、シャワーさえ使っていない。服も、体も、精液にまみれたままだ。
「汚していいんだよ」
「高そうな椅子なのに……」
「安い椅子なら汚したいのかい? それとも、汚れたら棄てればいい……と?」
「……え?」
 何を言われているのかよく分からなかった。ふと顔を上げた拍子に男と目が合う。
 今度は、その男から目が離せなくなってしまう。
 そして義也は、間違いなくこの男が神代なのだろうと覚っていた。あのピアスの写真はすべてこの男が撮ったのだろう、とも思った。
 神代は表面上、微笑と呼ぶ以外にない表情を形作っている。だが義也を見つめるまなざしには、他者の痛みを意に介さぬ酷薄さが滲んでいた。
「嬉しいよ。きみは物の価値の分からない馬鹿ではないようだからね。確かにこの椅子はどれも高価なものばかりだ。値段を度外視して最も適した素材を使い、設計から仕上げまで、すべての工程で手を抜かずに作られたものだよ。たったひとつの目的のためにね」
「……」
 神代は義也が何かを言うのを待っているようでもあった。だが、義也にはあいずちさえ思いつかない。その話がどこにたどりつくのかも分からなかった。ただ不安が押し寄せてくるのを感じている。
「汚していいんだよ。いや、それを見たいんだ。きみが高価な布地に染みを作ることをおそれながらその椅子に汚れた体を横たえて、堪え切れずにのぼりつめていくところが。そして新しい染みを作るところが……」
 そう言って、神代は一番近くにあった椅子のほうへ義也の体を押しやった。
「この椅子の張り地は、アンティークの毛織物だ。イギリスから取り寄せて張らせたんだよ。伝統的な石榴の文様でね。きれいだろう? ただの布切れに何でこんな金を……と思うくらいにふっかけられたし、同じものはもう二度と手に入らないだろう。でも、惜しくはない」
「あんた……頭、おかしいんじゃねえの」
 思わずそう口にせずにはいられなかった。
 うっとりと布地のうんちくを語る神代の表情には、狂気としか言えない歪みが潜んでいる。
 借金のカタに連れてきた若い男で持て余した性欲を解消し、ゲイものの裏ビデオを撮って小金を稼ぐ。そういうヤクザの行動のほうが、よほど理解しやすかった。
「その代償に手に入れるものは、僕にとってもっと大きな価値があるんだよ。あの男たちからきみを手に入れたのはそのためだ。僕の手できみを替えるためにね」
 そう言って、神代はその口元を笑った形に歪ませた。
「きみはここで生まれ変わるんだ。飼われることに何の痛みも感じない、ただ媚びるだけの愛玩動物に……」



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Date:2011/03/24
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Thema:BL小説
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2012/11/05 【】  # 

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