安寿の本棚

□ 剛&卯月 □

剛&卯月1

 モデルをやるのは初めてのことではない。
 美大進学のための予備校では毎度本職のモデルを呼ぶことなどできなかったから、生徒が交代でモデルの役を努めてデッサンの練習をしたのだ。
 もちろんそのときは全裸などありえなかった。女子は着衣のままだったし、男子もせいぜい上半身を脱ぐくらいで、五分と同じ姿勢を取り続けることのできない互いの姿を描き合ったのだ。
 だが、今回もそれと同じ……というわけには行かないだろう。
 剛は卒業のかかった課題のためのモデルとして卯月を指名したのだし、形の上では学生課も通したれっきとしたアルバイトなのだ。話がまとまったときに見せてもらった剛のデッサンはすべてヌードモデルを描いたもので、着衣のものなどひとつもなかった。
「……おとなしいんだな」
 シャツを脱ぎ始めた卯月に、剛が唐突にそう声をかけた。それまで矢継ぎ早にああしろ、こうしろと指示を出していた時の口調とはまったく違う――猫なで声とも言えそうな甘ったるい口調だった。
「え……」
「別に脱いでるとこには興味ねえし、お色気サービスは要らないんだぜ?」
 剛は笑ってそう言うと、ベッドに腰をおろしてスケッチブックを開く。狭い室内には他に剛が座るべき場所はなさそうだった。
 リラックスさせようと思ってそんなことを言ったのかもしれないが、はっきり言って逆効果だ。じっと視線を注がれて、かえって緊張感が高まってくる。シャツのボタンを外していた指が震えた。
「ご……ごめんなさい。俺……こういうの、馴れて、なくて……」
 窓際に黒い革張りの肘掛け椅子が置かれていた。
 剛が描きたいと言っていたのはこの椅子なのだろう。いい椅子を手に入れて、それに似合うモデルを探しているのだと言ってた。ありえないほどの散財だった、という愚痴も聞かされた。確かに6畳ほどの部屋には不釣合なほど重厚な代物だった。椅子を置くために慌てて場所を作ったのだろう、その脇のダンボール箱に画材と生活用品の混ざり合った雑多な品々が積み上げられている。
 アンティークの家具に関する知識など何もないが、かなりの年代物なのだろう。座面の革はひび割れて擦り切れかけている。無骨な鋲が打ち込まれて凹凸を形作っているその革の質感を見下ろして、卯月は喉の奥に苦い味が沸き上がってくるのを感じた。
 ようやくシャツを脱いで床に落とし、ジーンズのベルトにかけた手が……止まってしまった。
 この上に素肌を横たえる感触なんて想像できない。
 剛に注視されて素裸でポーズを取りながら、平常心を保っていられる自信など卯月にはこれっぽっちもなかった。
 ここに裸の男(女……ではなく)を座らせて描こうと思いついたとき、剛はどんな気持ちだったのだろう?
 モデルをやらないかと最初に卯月に声をかけた時から、剛は有無を言わせぬ態度だった。そうして強気に圧せば卯月が断り切れないと……どこかで見抜いているような雰囲気さえ漂っていた。
『金はちゃんと払うし、学生課にも話は通すぜ。……な、いいだろ?』
 逃がすものかと言いたげに腕を回して卯月の肩をぎゅっと掴み、剛は耳元でささやくようにそう言った。
 剛の吐息が耳朶をくすぐるのをまるでくちづけのようだと感じながら、卯月は小さく頷いていた。
 あのときにも卯月は何ひとつ言葉を発することはできなかった。
 まるで自らの体を売り渡す契約をしてしまったような気分。後悔の苦さと、いつまでも尾を引くように耳朶に残る熱の甘さに視界が白く霞んだ。
 小走りに去っていく剛の、少し猫背な後ろ姿を見つめながら……卯月は恋をし始めていたのだと思う。
「……」
 かすかに舌打ちの混じったため息を漏らして剛はスケッチブックを脇に置いて立ち上がった。剛がわずかに一歩踏み出しただけで、もう互いの体がふれあいそうなほどの至近距離だ。
「ぁ……」
 真近に剛の顔を見上げて、卯月は棒立ちになったまま言葉も出ない。
 だが次の瞬間、ほとんど突き倒されるように椅子に座らされた。いや、座っているというよりは、一方の肘掛に頭を預けて寝転がるような姿勢だ。覆いかぶさるように身を乗り出した剛が無防備に開いた卯月の足の間に膝を割り込ませ、さっき外しかけたベルトに手をかける。
 カチャ……とバックルが音を立てた。
 剛は難無くベルトを外すと、そのまま何の躊躇いもなくワンアクションで卯月のジーンズの前ボタンも外し、そろそろとジッパーを下ろしていく。
 そのままジーンズを引き下ろされるかと思ったが、剛はそこで手を止めた。卯月の下腹を見下ろしてごくりと唾を飲み下す。
「自分でする……から……」
 喘ぐようにそう言ったが、剛はもう卯月の言葉など聞いてはいなかった。ジーンズと下着のあいだに手を滑り込ませ、てのひらで半ば勃ちあがりかけていた卯月の花茎を包み込む。
「勃てろよ。ちんまりお行儀よくしてるところを描かれたいわけじゃないだろ」
「む、無理……だよ。そんな……いきなり言われたって……」
「やれやれ、手間のかかる〈お嬢ちゃん〉だな」
 剛は面倒くさそうにため息をつき、焦らすようにゆっくりと卯月の下腹を撫ではじめた。
「ん……ぁっ」
 堪えきれずに喘ぐ声が漏れた。
 自分で慰めるときとはまったく別の感覚。無理やり快感に追いやられていくような強烈な刺激に卯月は羞恥も忘れて自ら腰をせり出していた。
 その卯月を見下ろして、剛はかすかに笑みを浮かべた。
 嘲笑……のようにも見える。
 やっぱりお前は俺にこうされたかったんだな。そう刃のような言葉を突きつけられたような気がした。
「これくらいで限界ってことはないだろ? それとも……もう先っぽ濡らしてんのか」
「…………そんな……こと……な、ないったら」
「意地を張るより、可愛く欲しがれよ」
 剛はそう言って、卯月の耳元に口を寄せた。あのときと同じように、吐息で卯月の耳朶をなめるようにそっと囁く。
「――俺にいじられて濡れてるって、言えよ」
(まるで、AVのセリフじゃないか)
 ほんの2ヶ月まで高校生だった卯月には、性の経験などと言えるものは何もなかった。
 どちらかといえばそちらの方面には鈍いのかもしれない。高校生で初体験なんて話は別世界の出来事で、時折、インターネットで見つけたアダルト動画を見て自慰をするのがせいぜいだった。
 それだけで、天地がひっくり返りそうな罪悪感をいだいていたのだ。
 入ったばかりの大学で……しかも男から、こんな行為を強要されることになるなど考えつくわけもない。
 それなのに、まるで女みたいに扱われて、いいように敏感な 部位を弄ばれていることに……信じられないくらい興奮している。
(最低だ……俺……)
 淫らな言葉を強要されたことよりも、むしろそのことが苦しい。
「…………ぬ、濡……れ……」
 そんな言葉を最後まで口に出せるわけもなく、じわりと涙が溢れてきた。
「ちゃんと言えよ。もっと可愛がってやるぜ?」
「……馬鹿っ……く……。やめて……やめ……あ……あぁっ」
 堪えきれずにがくがくと体が震えた。下着の上から執拗に愛撫を繰り返す剛の手を払いのけようとした瞬間、卯月は堪えきれずに射精していた。
「敏感なんだな。……こういうのは初めてか?」
「ごめ……ごめんなさい。俺……」
「俺も、初めてだ。男をイカせるなんて……」
 剛はそう言ってまた笑うように吐息を漏らした。
 だがそこに嘲笑するような含みはもうなくなって、視線には、これまでには感じたことのなかった柔らかさが滲んでいた。それを見上げて卯月はどきりと胸をつかれたような心地になった。
 ボクサーブリーフのウェストゴムに手をかけられ、自身の放った精にまみれた花茎を引き出されたときも、まるで愛撫の続きのようだと感じていた。
 剛の指先が、ぬらぬらと光る白濁にも構わずに力を失った花茎をなぞっていく。
「その辺のスレた女なんかより、ずっとウブいな、おまえ。ああ、くっそ……色っぽい声出すから俺まで勃ってきた」
 剛は卯月の上に覆いかぶさり、肘掛に片腕をついた姿勢のままでジーンズの前をくつろげた。卯月の腹の上に、硬く勃ち上がった昂ぶりをあらわにする。
「え……ちょっと待って……」
「突っ込んだりしねえよ、安心しろ」
 慌てる卯月に面倒くさそうにそう言い放ち、剛はその先端を卯月の体に押し当てるようにしてその昴ぶりをしごき始めた。
 さっき、卯月のそれを愛撫したのと同じ動き。だが少し、焦っているのかもしれない。荒い息遣い。卯月に触れるときは撫でるように優しかった手の動きが、今はどこか攻撃的にその欲望の証をかたどってせわしなく上下する。
「……おまえの上に……出しても、いいか?」
 少し苦しげに絞り出される声。
 その声に卯月の体がびくり、と震えた。
「俺ので汚れたおまえの体が描きたい……」
 最も敏感な部位を撫でられたときよりも強く、その剛の言葉に心の深い部分をえぐられるような快感を感じて卯月は喘いでいた。
「いいよ……汚して……」
 そう答えながら、卯月はそっと目をとじた。
 このままじっと剛の望む通りの行為を受け入れたい。剛にも自分と同じように上り詰めて欲しい。その欲望の熱を、肌で直に感じとりたかった。

 そしてその熱を感じながら……あなたに恋をしているのだと告白しよう。




↓応援クリックお願いします。

人気ブログランキングへ

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村


関連記事
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2012/12/31
Trackback:0
Comment:0
UserTag: 須藤安寿  18禁  BL小説  * 
Thema:自作BL小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://anjusuto.blog69.fc2.com/tb.php/587-3f24f796
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)