安寿の本棚

□ 陵辱涙 猫科の愛玩動物 (完結) □

3 黙(もだ)せる顔の




陵辱涙3 表紙

第三章 黙(もだ)せる顔の




 神代の手がゆっくりと脇腹を撫で下ろしていく。そのくすぐったさを、義也はぼんやりと感じ取っていた。まるで頭の中に白い靄が立ち込めたように、すべての出来事が遠く感じられている。
 だがその指が、義也の着ている安っぽいハーフパンツにかけられたとき、びくり……と体が震えた。
 そのハーフパンツはヤクザの事務所に連れて行かれたあとに与えられたものだった。さっき脱がされたシャツも同じだ。おそらく若い組員の着古しかなにかだろう。与えられたときにはすでに薄汚れてあちこちほつれていたし、サイズも義也には大きすぎた。ハーフパンツとシャツの組み合わせも、どこかちぐはぐで不恰好だった。
 だがそんなこと、義也のほかには誰も気にはしなかった。どうせあいつらは義也に服を着せることになど、何の興味も持っていなかったのだから……。
 臍の間近で片蝶結びになっていた紐が解かれると、ハーフパンツの緩すぎるゴムのウェストは容易く腰からずり落ちてしまう。
 その瞬間、義也の脳裏にひとつの光景が蘇った。白い靄が唐突に晴れて、現実に引き戻される。
「……や、やだ。だめ……!」
 義也は慌てて神代の手を止めた。
 今さら、そんな懇願が聞き入れられるとは思わなかったし、すでにハーフパンツは腰の下まで引き下ろされている。だが、シャツを脱がされたときのように漫然とその状況を受け入れることはできなかった。
「ふ……っ」
 そう、かすかに神代が笑いをもらした。
 すでに半ば脱がされかかったハーフパンツの下で、じっとりと濡れて肌に貼りつく小さな布地。目を射るようなどぎついショッキングピンクのGストリングを、神代の目が興味深げに見下ろしている。
「女の下着が好きかい?」
 耳朶を舐めるようなささやき。神代が喉を鳴らして唾を飲むその音が、鼓膜を震わせる。耳の中にだらだらと唾液を流し込まれたような気がした。
「ち……ちが……」
 そう必死で否定する声が震える。
 その一方で、こんなものを身につけているヤツを、嘲笑したくなるのは当然だ……とも思った。
「違うって、何が?」
「これは、あいつが……あいつらが無理矢理……」
「ふふ……。ああ、そうだね、こんな下着を身につけることなんて、きみは考えつきもしなかっただろう。でも……嬉しいプレゼントだったんじゃないのかい? こんないやらしい下着をつけて、あの男たちを誘ったんだろう?」
「ち、が……う……違う、違うっ!」
 そう叫んで、義也はハーフパンツを引きずり上げた。その屈辱的な下着を、自らの視界からも、神代の視界からも覆い隠したかった。
 それで何かが変わるわけじゃない。
 どぎつい色の下着や、辱められた記憶が消えてくれるわけでもない。
(そんなこと……分かってる)
 だがこんなものを身につけた自分の姿をさらしていることに、これ以上、一秒だって堪えられなかった。

 この下着を義也につけさせたときの、男たちの嘲りの声が耳の奥にはまだこびりついている。それを再び神代の目にさらされて、義也は恥ずかしさと悔しさで圧し潰されてしまいそうだった。
 そこは萎えたままだったが、毒々しい色の布地は窮屈そうに盛りあがっていた。履きこみの浅い女物の下着に収まりきるわけもなく、牡の先端が下腹に押しつけられて顔をのぞかせていた。
『ほら、踊れよ。色っぽく腰をくねらせて、くるくる回ってみせろ』
 その無様な姿のどこがどう気に入ったのかは分からない。だが代行と呼ばれたあの男は、義也にその下着をつけさせてご満悦だった。
 踊れと言われても、義也にはどうすればいいのか見当もつかなかった。それに、あのときは両腕が後ろ手に縛り上げられて、満足に身動きさえできない状態だったのだ。何もできはしなかった。ただ男たちに眺め回されながら棒立ちになっていただけだ。
『役立たずな小僧だな。教えてやらなきゃケツの振り方も分からないのか?』
 罵声と共に竹刀が打ち下ろされた。義也が倒れるたびに髪を掴んで引きずり起こし、竹刀を叩きつける。起き上がることも出来なくなるまでそれが続き、義也は床に四つん這いにさせられた。
 竹刀で小突かれて、命じられるままに腰を上げる。きつい下着に性器が締め上げられ、尻の丸みのはざまにも、ぎりぎりと紐が食い込んでいた。
『叩かれるとイイのか? それとも犬っころみたいに這いつくばってケツを突き出すのと感じるのか? そんなに――をぶち込まれるのが好きか』
 代行と呼ばれた男はそう言うと、竹刀を投げ捨てて義也の腰を抱え込んだ。尻のはざまに食い込む紐を掴んでずらし、震える蕾にいきなり剛直を突き立てる。
 激痛に義也が声を上げ、身をよじるたびに、男は激しく腰を揺さぶった。
 そうされると、息が詰まりそうな苦痛に襲われる。義也はこの男とヤるのが、一番嫌いだった。
 乱暴だからとか、大きすぎるからとか……そんな単純な理由ではない。他の連中に比べるとその行為もうんざりするほど長く続いたが、それさえも理由とは言えなかった。嫌悪感を抱くのは、この男がどうすればより的確に義也を傷めつけられるかを熟知していて、それを愉しんでいるからだ。
「う……ああ、たまんねえな。無愛想でまるっきり可愛げもないくせに、ココだけは極上品だ」
 男の口からもれる、熱っぽくあとを引く低い呻き。それが、義也の体で味わう快楽の深さを示すように次第にあたりはばからぬものになっていく。あの声を聞かされるとき、義也はいつも切り裂かれるような痛みを味わっていた。
『あっ、ああ……っ! もう厭……。厭……だ。もう……やめて、お願い、お願いだから……』
 何度目になるのかも分からない男との交合だった。
 注ぎ込まれた潤滑剤や精液で、そこはずっとぬるついたままだ。それなのに、窄まりを押し広げられる痛みも最奥まで抉られる苦しさも、一向に和らぐことはなかった。
『すぐに馴れて、よくなる』
『これがイイんだろ? 後ろがびくびくしてるぜ』
 この半月のあいだ、男たちはそう繰り返していた。でもそんなことは嘘だ。義也の体はいつまでも強ばって、男たちを拒むばかりだったのだから。
(あと何度かこれを繰り返せば何かが変わるなんて、あり得ない。殴られたり、突っ込まれたりしてイケるわけねえよ。こいつらに可愛がられたいって思うようになる? 薄汚い――を舐めたくなるとか? 馬鹿くせえ。そんなことあるわけないじゃないか……っ!)

「そんな汚れた、いやらしい下着をずっと穿いているつもりかい? 体をきれいに洗って、別の服を着たほうがずっといいだろう。……厭かい? 奥の部屋には風呂もあるし、服も用意してあるんだよ。きみのような子が、ここにはよく連れてこられるからね。売女の下着なんかじゃない、ちゃんとした男の服がある」
「……男の……服?」
 神代の言葉をなぞってそう尋ね返す。ハーフパンツを引き上げていた指先から、ふ……っと力が抜けた。
「――私に、脱がせて欲しいんだね?」
 了承の返事として十分な手応えだったのだろう。
 神代は形ばかりの質問を繰り返してはいたけれど、もうそれ以上、義也の言葉を待つつもりはないらしい。
 義也も、神代の動きを阻もうとはしなかった。じっとその手の動きを見つめる。自ら腰を浮かせて、その行為を手助けさえした。
 神代の言った『ちゃんとした男の服』という言葉が、耳の奥にいつまでもとどまっている。
 あの白い靄の中に戻れればいいのに……と思う。
 ちょっと踏み出せば手の届く場所に、その入り口がありそうだという気もする。それなのに、さっきまで無意識のうちに身を浸していたその感触に、どうしてももどっていくことができない。
「佐竹代行がご執心なのも、無理はないな」
「え……?」
 神代が何を指して『無理はない』と言ったのかはよく分からなかった。佐竹代行というのは、多分あの男のことだろう。そういえば事務所でも、あの男にそんな風に呼びかける若いのがいたという気もする。
「何度か、佐竹代行から君のような子を譲り受けたことがあるんだよ。でも、ここまで手ひどくやられた子はいなかったね。たいていは、二、三日で飽きてしまったようだから」
 もう完全に服を脱がせたのに、神代の手はまだ義也の下腹にあった。まるで下生えの毛並みを確かめるように指が静かに動いている。
「あ……」
 義也は自分の唇が震え、ため息のようにそう声がもれでたことにどきりとした。
 思わず、ぎゅ……っと瞼を閉じる。
(な……んで……勃ってるんだよ、俺)
 それだけではなかった。義也は自分の体の奥に、とろりと熱い流れがあることも覚っていた。
 口にも、後孔にも、まだあの男たちの昂ぶりを押し込められていると錯覚しそうな圧迫感がある。胸の突起にも、やわやわと舌先で舐められたときそっくりの違和感がこびりついていた。荒っぽく扱われた痛みではなく、肌をざわめかせる感触だけが蘇ってくる。
 神代は、ただ下腹の茂みに触れているだけで、義也の牡に触れてさえいないのに……。
(あいつらとヤってたときも、俺……今と同じ顔、してたのかも。こんな顔であいつらを見上げてたのかも)
 そのことにかすかな衝撃を受ける。
 あの男たちの興奮を、自ら煽っていたなどとは考えたくなかった。
 おそらくは神代もあの男たちと同じことをするのだろう。あいつらより上手いかもしれない。気持ち良くさせてくれるのかも。そして神代のモノなら、口いっぱいに頬張って舌を使いたくなる……? ――自分がそんな期待をしているなんて、考えるのもおぞましい。
(神代も硬くしてる。ヤりたくて、うずうずしている)
 だが神代は無理強いしたりはしない。たとえそれがかすかな目配せであったとしても、義也が合図を送るのを待っているのだ。だから義也は顔を上げることができなかった。目が合えば、“抱いて”というサインだと思われてしまいそうだ。
(さっさと……ヤればいいじゃないか)
 焦れて、そう叫びたい気持ちをぐっと堪える。
(挿れて下さい……なんて、言えるわけない。そんなこと絶対言えない。だから……)
(どうとでも、好きなようにヤればいい……)




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Date:2011/03/26
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UserTag: BL小説  18禁  須藤安寿 
Thema:自作BL連載小説
Janre:小説・文学

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